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ハーモニー

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)

日本の作家として初めて海外のSF文学賞特別賞を受賞した作品らしいので読んでみた。
世界に数十発の核弾頭が降り注ぎ、死病が蔓延した時代を生き延びた一部の人間達のトラウマから、一定の年齢に達した人類のほぼ全てをネットワークで接続し、あらゆる病気を駆逐して互いを慈しみ合う生命至上主義をモットーに掲げた究極の健康社会が構築されるに至った世界で、最大の禁忌とされる自殺を試みて失敗した3人の少女達の話。成長してWHOの生命監察官という職に就いて、システムに組み込まれたふりをしつつも極端な無菌状態へと傾いた世界への嫌悪を拭い去れずにいたヒロインが、一緒に自殺に失敗して生きながらえたかつての友人を含んだ全世界大量自死事件に遭遇するところから話が動く感じ。

あとがきにロジックは得意だけどドラマは苦手とか書いてあっただけあって、世界観設定と登場人物の心理の、描写の密度における落差は激しいと感じました。まあその、冒頭わずか30ページぐらいで何の区切りもなく時間軸がいきなり移ったり、読みやすい文体だけれど全編にHTMLぽいタグが散りばめられていたり、濃ゆい論理的、哲学的な部分と、薄い感情的な部分というバランスの悪さも最後まで読むと重要な仕掛けとして機能していないでもない事が解るのでまあまあ納得できるし牽引力を持った文章ではあったと思います。

あとは自殺に失敗した3人の少女のうち、1人だけ死んだとされる少女がいて、事件の裏に彼女の陰がキーパーソンとして見え隠れしつつ終盤で再会を果たすわけですが、実は生きていたのを死んだことにされてたとかそういう説明がまったくなくてにわかに混乱したぐらい。ユートピアディストピアの表裏一体感みたいなのは好きだし、オチのマイナーチェンジ感も素直に驚けたし概ね面白かったです。前作も読んでみようと思います。