Boichi短編集 HOTEL

Boichi 作品集 HOTEL (モーニング KC)

Boichi 作品集 HOTEL (モーニング KC)

短編集。06〜08年の間にそれぞれ年1回モーニングに掲載されたSF読切が中心で、さらにそれぞれ描き下ろしのショートSFも収録。蘇る、表題作『HOTEL』を初めて読んだ時の衝撃。温暖化が臨界点を超えて滅亡が確定した人類が人間を除いたすべての生物のDNAを保存するために建造した、ルイ・アームストロングと呼ばれるコンピュータを管理人とする“ホテル”と呼ばれる贖罪の塔の話で、人類が絶えて地球の環境が激変してなおただそこに在り続ける様子を淡々とモノローグするだけなんだけど、とにかく壮大にして壮絶。『What a Beautiful World』の使いどころも効果的。

卒業を待って当時の担任教師と結婚した直後に奇病に罹患して眠り続けた少女が目覚めたところから始まる『PRESENT』や、子供の頃に寿司屋で食べたマグロが、当時地球最後のマグロだった事を知った男がその後科学者になってマグロ復活に生涯を捧げるもなかなか本懐が遂げられず、ついでの成果で地球の様々な諸問題を解決してしまう微妙な悲哀をコメディタッチを交えて描く『全てはマグロのためだった』等、膨大に流れた時間の果てに結実する想いというものに共通して焦点を絞った衝撃作が続々。どれも高い密度の作品で、176pが短いと感じないです。巻末2作はSFじゃないけれど、作者の意外性と芸達者ぶりとを同時に見せ付けているかと思います。『サンケンロック』からはSFの匂いがしないので新鮮であると同時に買ってよかったというちっさな勝ち組感も沸いてくるような気がします。いい買い物だった。